前回、MDに求められる組織で活動する能力について書いたが、今回はもう一歩進んで、組織をリードする能力について書いてみたい。
特に近年、製薬企業がMDに組織をリードする役割を果たすことを求めるようになっている。理由は、組織をリードする人間がMDであったほうがよいからである。
考えてみればこれは至極自然なことで、薬剤は、患者さんがそれを使ってどうか、という点が極めて大切であるからである。これは極めて臨床的な判断である。狭い意味での薬学だけでそのことを論ずるよりも、実際に患者さんを診たことのある、あるいは診ている医師がそれを行うのが望ましい。
MDの採用は、欧米系の外資系企業が先行しているが、実際にこれら企業における主要な役職者は、MDであることが多い。具体的には、最初はメディカルマネージャー、メディカルディレクターといった役職で入社する。最初は部下を持たないものの、プロジェクトのリーダーを任され、同僚をまとめあげることが求められる。そして、リーダーとしての資質があることが確認されれば、部下をもつ部長、そして執行役員である本部長というふうに役職が上がってゆく。CEOがMDであることもある。当然、組織におけるそれぞれ自身の権限の範囲内で最終的な意思決定を行い、その決定に責任を負う。
MDの場合であるが、この昇進のスピードが速い。およその目安として、製薬企業経験3-5年で部長、5-10年で本部長といったところであろうか。この際、勤務先が外資系企業が多いこともあり、転職が頻繁に行われることも多い。数年おきに他の製薬企業に転職することも多いが、その場合は、通算して何年の業界経験があるかが大きな目安となる。このように、短期間で責任ある立場に立つことが多いため、短期間で多くのことを身に着ける必要がある。
ただ、このリーダーシップについていえば、臨床医から転職する医師は注意が必要である。MDのほとんどは、医療機関の臨床医から転職することになろうが、病院でのリーダーシップのありかたと、企業のそれとでは求められるものがやや異なる。前回も書いたように、ごく単純化していえば、病院では自身が判断し、一方的に周囲に指示するという絶対的なリーダーシップが求められるのに対し、企業でのMDのリーダーシップのありかたは必ずしも絶対的なものではない。部下の意見をよく聞き、他部署の立場も考慮しつつ、企業全体の方針もふまえながら意思決定してゆくことが求められる。
特にMDは患者さんの健康を常に念頭に置かなければならない。この点は、臨床医と同じである。仮に、企業が患者さんをないがしろにすることがあれば、MDは企業にブレーキをかけなければならない場面もある。その点でいえば、医師を志した始めの頃のいわば青臭い気概が必要ともいえるが、それだけでも足りない。いずれにしても、かなりのコミュニケーション能力が求められることは確かである。
このように、様々な方面に気配りできる、バランスのとれた能力がMDには求められる。病院では、あの先生は他者とのコミュニケーション能力は今一つだが、腕、つまり医療技術には確かなものがあるからという理由で評価される医師も少なくない。ここはいい悪いの問題ではなく、適性の問題として、こういった医師は、企業が求めるものとの距離があることになろう。