医師のキャリア

メディカルドクター(MD:製薬企業内医師) -必要な資質・能力としての組織で活動する能力ー

今回は、MDに必要な資質や能力、そのなかでも、組織で活動する能力について書いてみたい。

臨床医がいざMDに応募してみたものの、そのハードルの高さに驚いたという声をよく聞く。MDになることは難しいか聞かれれば、難しいとも易しいとも答えにくい。その医師に向いた職業かどうかが大きい。また、プラスして、応募する企業との相性、上司との相性という点も無視できない。ただ、少なくともMDに就任するにあたり、最低限クリアーしておかなければならない点はある。そのなかでも、重要と考えられる、組織の中で活動できる能力について書いてみたい。

多くのMDを見ていると、始めてMDに就任する際、これができるかどうかが明暗を分ける印象を受ける。逆に言えば、これができない医師は、面接等で百戦錬磨の企業の面接官にすぐに見破られる。

組織の中で活動できるか、と問われれば、勤務医からは、組織の中で活動しているよ、という声が聞こえてきそうである。企業のMDの場合は、勝手が異なる。ポイントは組織としての意思決定に関与できるかということであろう。

例えば、勤務医の場合を考えてみよう。勤務医は病院に属しているし、院長や事務長もいる。看護師や検査技師などと組織を組んで患者さんの診断や治療などにあたっている。それはそれで組織で活動しているとはいえる。ただ、勤務医の場合は、患者さんと1対1で向き合い、患者さんのお話をお伺いし、患者さんを診察して、基本的には自分自身で検査方針や治療方針などを意思決定する。その意思決定を看護師や検査技師などに指示すれば、よほど的外れの指示でない限り周りは自身の意思決定に従い動いてくれる。その意味では、臨床医の場合は、たとえ勤務医であっても、その意思決定は絶対的なものであるといえる。カンファランスなどで議論して方針を決定する場合もあるが、それは補完的なものであるにすぎない。医学生や研修医は、この自らの意思決定能力ができるよう、日々研鑽を積んでいる。

一方で、企業の場合はどうか。私が企業に初めて入って、最も役立ったのが、中学生の生徒会長の経験である。いろいろな人がいろいろなことをいう。特に決まったやり方というものがないことが多く、組織の周りの人たちと議論しながら、組織としての意思決定をしてゆく。MDはそういった人たちの意見を聞き、自身の判断を交えながら、あくまで組織としての意思決定がどうあるべきかと考える。MDの意思決定は必ずしも絶対的なものではない。MDは組織の構成員の一人にすぎず、あるときは主張し、あるときは協調するといったように、企業人としての振る舞いが求められる。

臨床医であれば、先生と呼ばれるが、通常、企業では先生とは呼ばれない。~さん、と周りから呼ばれる。あくまでMDは組織人の一人にすぎない。MDに就任して間もない頃は、先生、と呼ばれることもあるが、これは「あなたを企業人としてまだ認めたわけではありませんよ」という意味である。~さん、と呼ばれるようになったら、MDとしての転職はひとまず成功と考えてよいだろう。