今回はメディカルアフェアーズ部門とMDの役割について書いてみたい。
3つの部門の中で最も説明しにくいのがこの部門である。なぜなら、企業によってその活動内容がかなり異なり、メディカルアフェアーズ部門とはなにか?という問いに対しては、三者三様の答えが返ってくるからである。そのなかでも、概ねこういう部門と理解すれば大勢と大きく乖離しない説明をする。
メディカルアフェアーズ部門が開発部門やファーマコヴィジランス部門と大きく異なるのは、主として市場、すなわり医療関係者や患者さんを相手に活動する点である。開発部門の活動の主な目的は、薬剤の販売の承認を当局(PMDA:医薬品医療機器総合機構)から取得することである。したがって、活動の相手は市場というよりも、直接的には当局となる。ファーマコヴィジランス部門も薬剤の安全性を当局に報告することが直接的な業務となる。
メディカルアフェアーズ部門が市場を相手にするという点は、マーケティング部門や営業部門と共通している。歴史的にも、メディカルアフェアーズ部門は比較的新しく、マーケティング部門や営業部門から分離独立してきた経緯がある。実際の活動も、マーケティング部門や営業部門とのコミュニケーションが最も大切となる。
メディカルアフェアーズ部門と、マーケティング部門や営業部門との役割分担であるが、メディカルアフェアーズ部門が主に科学的、学術的、倫理的な活動にフォーカスするのに対し、マーケティング部門や営業部門は主としてビジネスにフォーカスしている点である。この点で一応のすみわけができているが、その境界は必ずしも明らかではない。同じ市場を相手にしていることもあり、マーケティング部門や営業部門にも科学性や学術性、倫理性は求められるし、メディカルアフェアーズ部門にもビジネス視点は求められる。メディカルアフェアーズ部門がマーケティング部門や営業部門から独立して活動することで、科学的、倫理的な中立性を担保することがメディカルアフェアーズ部門の独立が必要な主な理由である。
メディカルアフェアーズの活動は多岐にわたるが、臨床研究はマーケティング部門や営業部門では担うのが難しい活動であろう。近年、臨床研究のデータの改ざんなどが問題となり、臨床研究はマーケティング部門や営業部門から独立した組織が役割を担うのが望ましいとされてきた経緯がある。ビジネスのために科学や倫理が捻じ曲げられることのないようにとの思いからである。その意味では、おそらくは最低限、臨床研究はメディカルアフェアーズ部門がコアな活動として行うべき活動であろう。
一般に、臨床研究は、治験以外の人を対象とする医学研究ととらえられる。特に介入研究の場合は治験と似た方法で行われることが多いため、企業によっては、開発部門の中にメディカルアフェアーズ部門をおくという組織構成をとっているところも少なくない。
私はメディカルアフェアーズ部門に属して10年になろうとしているが、活動していて面白い。臨床医時代には出会えなかったようなその分野の第一人者と学術的な議論を交わし、しばしば臨床研究を共同で企画実施し、論文化する。その論文には、自身も共著者として名を連ね、自身の業績の証ともなる。世界の第一人者と協業することも少なくなく、国際的な仕事ができることが多い。国際学会を舞台とする活動も実際に多い。
メディカルアフェアーズ部門が活躍している企業では、企業のあらゆる活動に科学や倫理の目をゆきわたらせるとの観点から、様々な活動にメディカルアフェアーズ部門が関与している。そして、メディカルアフェアーズ部門におけるMDは部門内で中心的な存在であり、MDが引っ張ってゆくべき部門ともいえる。実際、求人が最も多いのも3つの部門のなかではメディカルアフェアーズ部門であろう。
これまでMDが活躍する3つの部門について書いてきたが、最終的に大切なのは、患者さんに貢献しようという熱意である。薬学的なことなどは、社内に多くの専門家がいる。MDは常に患者さんのことを忘れずに活動することが大切である。特にメディカルアフェアーズ部門での活動は、絶対的な正解というものがないこともままあり、複数の手段のどれをとっても不正解ではないということが多い。
MDとして判断に迷った場合は、最終的には患者さんにとってどうか、という視点で臨むことが肝要である。上司にとってどうかではない。それで上司と折り合いがどうしてもつかない場合は、部署を変える、企業を変える、臨床医に戻るなど、いくらでも道はある。メディカルアフェアーズ部門のMDでやってゆくためには、そのくらいの意気込みが必要である。