医師のキャリア

メディカルドクター(MD:製薬企業内医師) -その仕事内容:ファーマコヴィジランス部門ー

今回は、MDのファーマコヴィジランス部門における役割について書いてみたい。

臨床医から製薬企業に初めて転職する際、おそらく一番しっくりくる仕事がこの部門の業務だろう。薬剤の副作用に関し、医学的評価を加える仕事である。内資系の企業では信頼性保証部門などと呼ぶことも多い。

製薬企業には、当局、すなわちPMDA(医薬品医療機器総合機構)に対し、適切な医薬品の安全性の報告を行うことが義務付けられている。具体的には、個別の患者さんに関し、薬剤によって生じた事象を評価し、薬剤との因果関係が否定できないものを副作用として報告してゆくことになる。

薬剤は多くの場合、有効性と安全性のバランスでその適正な使用が決められるべきものである。副作用が出たからといって、直ちにその薬剤が使えなくなるわけではない。その薬剤の有効性の恩恵を受ける患者さんの存在も忘れてはならない。したがって、副作用については、それらの内容と頻度などが考慮され、これらが薬剤の有効性による便益を上回る弊害であるか否かが判断されることになる。そのうえでその薬剤に関し、何らかの安全性面の対応が必要と判断された場合には、然るべき対応がとられることになる。具体的には、企業は、添付文書を改訂したり、医療機関や薬局等に対し注意喚起したりすることになる。

MDの仕事の観点からすると、ファーマコヴィジランス部門における業務には2つの特徴がある。第一はファーマコヴィジランス部門に限ったことではないが、特にファーマコヴィジランス部門のMDに求められる倫理性である。企業は本来的に営利団体であるから、とかく目先の利益に目がゆきがちとなる。薬剤の副作用が看過できないものである場合には、MDが先陣をきって、だめなものはだめとはっきり主張し、ステークホルダーとの調整が必要とされる。特にファーマコヴィジランス部門のMDにはこの倫理性が求められる。

第二の特徴は、ファーマコヴィジランス部門におけるMDの仕事は、比較的受け身でよいということである。企業が初めての医師の方でも、入社すると、個別の症例について、他のスタッフから臨床的に見てどうか?とどんどん意見を聞かれる。そしてその内容のほとんどが普段臨床医が扱っているものであるため、すぐに企業に貢献できることになる。他の部門、特にメディカルアフェーアーズのように、受け身ではなく、企業内で自発的創造的に自らの仕事を作り出してゆくことが求められることが多い部門における業務とは対照的な面がある。

最近は、コスト削減の観点から、ファーマコヴィジランス部門の業務の多くを外注する会社も増えつつあるが、外注せずに社内で業務を続けている企業も多い。MDの場合は、最初はそもそも会社員という立場になじむのに時間がかかる方も多いことから、まずはファーマコヴィジランス部門のMDとしてMDをスタートすることは合理的な選択の一つである。