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納得のゆく死

今月、父が亡くなった。10か月もの間入院し、「家に帰りたい」と言い続けたまま他界してしまった。私は、父が納得のゆく死を迎えられたのかいまだに答えを見い出せずにいる。

長年臨床医をしていると、何が適切な医療か分からなくなることがある。医師になりたての頃はとにかく、目の前の命を救うのだという使命感でやっていた。しかし、これだけ長寿社会になると、人生の晩年の迎え方は多様化する一方である。健康で長生きしたいという方もいれば、長寿になってまで生きたくないという方まで様々である。

人はいつか死を迎える。そうすると、その死をどのように迎えるのかが重要なのではないだろうか。例えば、健康な未成年の子供を、いつか死ぬのだからといって殺すことはできない。逆に、私の父のように、家に帰りたいというのなら、どんなに病状が重くても帰らせてあげたほうがよかったかもしれない。がん患者などで余命いくばくもない患者さんが、お酒を飲みたいというのなら、思う存分飲ませてあげるのがいいかもしれない。

唯一問題となるのが自殺ほう助や嘱託殺人のケースであろう。これらは、現状、本邦では刑法により規制されており許されない。医療現場でも、殺してほしいという患者さんに遭遇することはよくある。海外では欧米を中心に、いくつかの国で安楽死が認められている。真意で死にたいと考えている患者さんに対し、納得のゆく死を迎えることができるようにするか否かは今後の課題であろう。