医師のキャリア

メディカルドクター(MD:製薬企業内医師) -必要な資質・能力としての臨床能力ー

今回は、MDに必要な臨床能力について書いてみたい。

製薬企業がわざわざ中途採用としてMDを採用するのは、その臨床能力、すなわち、患者さんを診る能力を求めているからである。では、どういった臨床能力を求めているのだろうか。

募集要件などでは、臨床経験5年以上などとあることが多い。そうすると、年齢にすると医師になるのが24歳として29歳以上ということになろう。

しかしながら、私は多くのMDを見てきているが、20代のMDは見たことはない。多くの場合は、40代から50代、若いMDで30代の方をたまに見かける。もちろん、最近は60代の方もよく見受ける。

分野はできれば内科系がいいだろう。もちろん、各薬剤に特化した分野の専門医のほうがよいが、臨床医の場合とは異なり、MDは様々な分野の薬剤を扱わなければいけない。したがって、中長期的に見れば内科系がよい。日本内科学会の専門医、できれば総合内科専門医のレベルは欲しいところである。となると、やはり年齢は若くても30台ということになろう。

ただ、一般に臨床医から企業への初めての転職では、課長職クラスから入職することが多いため、役職とのバランスも考えると40歳前後が一番良いと思う。臨床経験との関係でも40歳くらいがよい。臨床経験はやはり10から15年くらいは欲しい。そうすると、やはり40歳くらいが望ましいと思う。

仮に内科系としても、臨床医の場合は、循環器や消化器といった具合に、さらに専門医がいる。もちろん、製薬企業のMDでも、特に大型製品に特化する場合などは、そういった特定の分野の専門医のほうが望ましい場合も多い。ただ、実際には、総合内科専門医のレベルがあれば、ひとまず大丈夫である。なぜなら、MDの仕事は、直接患者さんを診るわけではなく、その分野の専門医との議論ができ、文献を理解し、論文が書けるレベルであれば足りるからである。臨床研究を企画するにしても、病態や診断や治療の前提を知っていれば、あとは入職後に習得すれば足りることがほとんどである。

あえて分野についていえば、現状はオンコロジー領域のニーズが多い。その意味では、抗がん剤を処方した経験のある臨床医は貴重であり、外科系のMDもよく見受ける。私見では、今後はCNS(中枢神経)のニーズが高まると考えている。主に神経難病の類である。これらには、精神科系と脳神経内科系の両疾患が含まれうる。

いずれにしても、企業においては、知識もさることながら、実際に患者さんを診る臨床医として、倫理面からの活動も非常に重要である。常に病気で苦しむ患者さんに寄り添う心構えで、患者さんを最優先した行動がMDには求められる。その意味で、MDは企業内において、倫理的支柱としての役割も求められる。こういったこともMDの仕事の醍醐味である。