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国を売るケアマネージャー

今回は、患者さんの介護面でのサポートをするはずのケアマネージャーの少なからぬ一部がこの国の医療を破壊しようとしている点について書いてみたい。

筆者は、東京都心部で非常勤の訪問診療を行っている。東京都心部で訪問診療をしたことのある医師なら経験することと思うが、ケアマネージャーが診療の内容に介入することがある。具体的には、この検査をせよとか、この薬を出せといったものである。多くは、誤解している患者の申告に基づいている。患者が希望しているのだから、医師は患者の希望に従うべきというものである。目に余るケースが多い。

こういった介入には、いくつかの問題点がある。まずは、役割分担の問題がある。特に訪問診療などでは医療と介護は互いに協力して患者さんの幸福を追求しなければならないが、訪問診療を行う医療機関は医療、ケアマネージャーは介護と、役割分担がなされている。ケアマネージャーが医師に診療内容について質問することは問題ないが、事実上であれ、強制力をもって、医師に診療内容の指示を出すことは許されない。

次に、患者やケアマネージャーの能力の問題がある。御周知のように、我が国では、医師法により医業が原則医師の独占業務となっている。これは、医療が患者さんの身体、生命に危害を加え得るものであるから、最低限の訓練を受けたプロである医師が医療の判断を行うことにより、患者さんの健康を守ろうとしたしくみである。

したがって、医師が必要のない、あるいは患者の健康にとってよろしくないと判断した検査や治療は行われることがなく、患者さんが安心して毎日を過ごせるような仕組みとなっている。であるから、ケアマネージャーが医師に対し、たとえ事実上であれ、不適切な医療を行うことを強要することはあってはならない。

このような医療に関する作為請求は、前述したように、患者の誤解に基づくものが多い。最近は、インターネットが普及してきたため、ご自身の症状が特定の疾患に類似しているため、患者自身がその疾患を有していると誤解することがままある。こういったケースの場合、訪問診療の場では、医師が患者に対し、確かに症状は類似しているものの、その他の事情を考慮して合理的な医学的な判断の下にその疾患は否定できる、したがって、検査も治療も必要ない、といった説明をする。ただ、患者さんは一回思い込むと、不安感などから、「検査してもらえなかった、あるいは治療してもらえなかった、だからあの医師はけしからん」という思考回路に陥ることがしばしばある。こういった患者さんの納得を得るための医療の取り組みは必要であるが、単純に患者が求めているからやれ、というケアマネージャーの姿勢は到底受忍できるものではない。

では、なぜこのようにケアマネージャーが医師に医療の指示ができるのか。それは、特に訪問診療においては、ケアマネージャーが医師の生殺与奪の権限を持っているからである。特に、競争の激しい都市部でその傾向が顕著である。例えば、医師が訪問診療のクリニックを開業したとする。そうすると、集患にあたり経営者である医師が最も頼らなければならないのがケアマネージャーである。クリニックに患者を連れてきてくれるのは、一般のクリニックのように患者自身ではなく、ケアマネージャーなのである。ケアマネージャー同士で、あそこの訪問診療クリニックはどうだとか、この訪問診療クリニックはこうだとか、活発な情報交換がなされる。そういったなかで、患者の希望を聞かない医師、というレッテルを貼られることは死刑宣告を受けるに等しい。例え、どんなにその医師が高い能力と倫理観、そして情熱をもって診療に従事していたとしてもである。患者が来なければクリニックの経営も立ち行かなくなり、背に腹は代えられない状況に陥る。

そもそも、我が国では、医師になる道は、重大な犯罪を犯したなどの欠格事由がない限り、公平かつ公正に広く国民に開かれている。先日、70歳代で医師となった方がニュースに載っていたが、年齢等を問わず医師になる道は市民に広く開かれている。もちろん、ケアマネージャーが医師の資格をとることは禁止されていない。医療に介入するのなら、最低限、医師免許は取得すべきであろう。ケアマネージャーが思い付きで医師に医療内容の指示をするようなことはあってはならない。まずは、医師の資格を取得し、きちんとした医学的理由を付して、ケアマネージャーとして医療の作為不作為に対し物申してゆくべきだろう。

さらに、現状の我が国の財政状況も考慮しなければならない。現状、医療、社会福祉費の増加は喫緊の課題で、不必要な検査や治療に財源をあてている余裕はない。医療が必要な患者でも、いかに必要最小限の支出で目の前の患者さんの健康上の課題を解決するか、心ある医師はそこまで考えている。ケアマネージャーの浅はかなリクエストに対し、貴重な国民の社会保険料を使うわけにはいかない。

といろいろと書いてきたが、何らかの新たな仕組みづくりが必要であろう。例えば、医学部を卒業した者を、医師とケアマネージャーに振り分けるといった思い切った方法も考えられよう。そのためには、医学部定員の大幅な増員を行う必要があるが、それはそれで構わない。幸いといってよい分からないが、我が国では、法曹(裁判官、検察官、弁護士)の数を国策として極端に絞っているため、本来法曹を目指すべき人材が大量に医学部に流れている。法曹が国民からかけ離れたところで自己満足している間に、医学部、医師の世界は、この国の英知を結集した頭脳集団となっている。

実際、医学部の難化はここ数十年進み、優秀な人材の確保には事欠かない。ケアマネージャーが医療において、上述したような大きな事実上の権限を持つ以上、ケアマネージャーに医師資格を求めるくらいのことはやってもよいだろう。逆に、規制をかけるという観点からは、患者保護、あるいは国家の財政を守るといった観点から、たとえ事実上であっても、医師に不当な指示を出すケアマネージャーに罰則を課すという方法も考えられよう。

いずれにしても、放置されている現状は健全なものではない。患者や国家を思う立派な医師が虐げられ悩み、医師を誹謗中傷するケアマネージャーが有頂天になっていて何の制裁も受けない。これを国を売ると言わずして何というのか。ケアマネージャー側からの反論があれば是非聞いてみたいものである。